第22話
身構えながら入学した中学校の生活にも、ほどなく慣れた。身構えの原因だった別の小学校出身の同級生たちとも日がたつうち次第に打ち解けていった。しゃべる言葉にはまだまだ違いはあるものの、「もう気持ちは一緒」と言っていい。
新しい遊び仲間もできた。「クン太」と「カンちゃん」の二人だ。同じクラスのクン太は帰り道が途中まで一緒だから、自然に仲良くなった。カンちゃんは別のクラスだが、クン太とは幼なじみで家も近く、いつしか三人組が出来上がった。クン太は歌やおどけたダンスで場を盛り上げる、いわばクラスの「お笑い芸人」。カンちゃんはスポーツ万能で、小学校ではケンカ大将だった。ボクはこれといって特技はないが、アイデアの豊富さと要領の良さで「遊びの司令塔」を任されている。三者三様のキャラクター。自慢じゃないがチームワークは抜群だ。
夏休みはほとんど三人で行動した。泳ぎを兼ねた海釣りは日課だ。どれだけ高い所から海に飛び込めるか肝試しもやった。港に朽ち果てていた小さな伝馬船を漕いで、建設中の鹿児島新港横断にも挑戦。広大な港のど真ん中で沈没して、あわや、という目にも遭った。
自転車で遠くの海まで遠征することもしばしばだ。鹿児島市に合併する前の谷山市街を越えて平川の海岸にも出かけたが、「電気クラゲ」にやられ、三人ほうほうの体で逃げ帰ったこともある。その後も機会をとらえては自転車で遠出をした。これは高校の時に挑戦することになる「5日間チャリンコ九州一周」の下地になった。
いつも三人一緒で、ばかげた事ばかりやっている―みんなには、そう思われている。当時人気を誇ったアメリカの喜劇テレビ番組「三ばか大将」にちなんで、ボクらのことを陰で「三バカ」と呼ぶ輩もいた。その「おバカトリオ」の本領を発揮する時がやってきた。
秋が深まっても三人は相変わらず海で遊んでいた。日が落ちると停泊中の船に勝手に乗り込み、マストによじ登っては港の景色を眺め悦に入る。高い場所から見渡す鹿児島の夜景は格別美しい。「もっと高い所から眺めたいね」。クン太がそう言いだした。それも山形屋デパートの屋上とかじゃな
く、誰もいない高い場所からだと言う。「鹿児島市内で一番高いのは、どこ?」「MBCのテレビ塔だろ!」「じゃ、そこに登ろう」。三バカは話がまとまるのも早い。
実行は翌日だった。山登りと違って、おおっぴらにやれるわけじゃない。見つかれば怒られるくらいでは済まない。学校にばれたら大変だ。でも登ると決めた以上、覚悟も決めた。夜陰に乗じて決行する。
「バカは高い所に登りたがる」とは言うが、「登れるものなら登ってみろ」とでも言わんばかりにそびえ立つ塔を見ると、登らずにはいられなくなる。「そこに塔があるから」。まるで登山家のような衝動に駆られていた。
その日、クラスの何人かにはテレビ塔への挑戦を打ち明けた。仲の良い級友たちだが、「またバカなことを」という目で見ているのが分かった。
夕食をそれぞれ済ませ、夜8時、クン太の家の前に自転車で集結した。目指すはMBC(南日本放送)のテレビ塔。それは城山のてっぺんにそびえ立っていた。
次回は第22話 「バカは高い所に登る」(後編)